■■■【第4回】市川森一脚本賞  ■■■

<受賞者・作品>






足立 紳(あだち しん)氏


「佐知とマユ」(全1回)
NHK総合、2015年3月17日~創作テレビドラマ大賞

  足立 伸(あだち しん)氏

【受賞の言葉】

9年前、長女が生まれたときに仕事もお金もなく「百円ショップ」の深夜アルバイトをした。そのとき、小学校低学年くらいの女の子が小銭を持って深夜にしばしば買い物に来た。その子は小学生とは思えぬような生気のない目をしていた。あるとき、母親と一緒にやって来た。母親も同じような目をしていた。きっと同じ目をしながら働いていた自分はこの親子を見て思った。この人たちは幸せになりたいと思えるような心があるだろうかと上から目線で思った。この親子はドラマなんか必要としていないだろうと思いながら、でも誰かと出会ってほしいという願いを込めて書いた。

 

脚本はそれだけで評価されることはほぼなく、完成した作品から想像して評価して頂くことが圧倒的に多いです。なので今回の受賞はスタッフキャストの方々に素晴らしい作品に育てて頂いたおかげです。

 

市川森一先生の作品をロクに見たこともない自分には、大きな嬉しさと同時にとても重たいものを背負ってしまったような気持ちにも少しだけなりましたが、これからはあのときの親子にも少しでも届くようなドラマを作っていけたらと思っています。

 


<略歴>

1972年 鳥取県出身 日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。

助監督、演劇活動などを経てシナリオを書き始める。

 ~主な授賞歴~

2012年、第1回松田優作賞グランプリ脚本「百円の恋」が2014年に映画化。

同作品で第17回菊島隆三賞、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。

2013年、第38回創作テレビドラマ大賞受賞「佐知とマユ」

2015年、映画「お盆の弟」で第37回ヨコハマ映画祭脚本賞受賞(「百円の恋」とあわせての受賞)。

~主な映画脚本~

「スクールガール・コンプレックス~放送部編~」(2013

「モンゴル野球青春記」(2013)「童貞放浪記」、(2009)「キャッチボール屋」(2005)など。

~テレビドラマ脚本~

「いつかティファニーで朝食を」(2015日本テレビ)

~小説~

「乳房に蚊」(2016年2月刊行、幻冬舎)

  第4回「市川森一脚本賞」選考経過

候補者4名の選出

201511日~1231日に配信放送の映像ドラマから、選考担当の菅野が11人の候補者をリストアップ、市川・渡辺・高橋・小林・辻の理事5人と菅野とで4名の候補者とその対象作品を選ぶ。

 

<選考の基準>は例年通りで、プロデビュー10年程度以内で、オリジナル作品を執筆し、受賞を機に将来さらに大きく伸びると期待される人で、「市川森一」の名にふさわしく、<物語性>や、<夢・異空間>、さらに<挑戦>しているか否かを考慮する。

 

選考委員の交代と新任

今井夏木(TBSテレビ)氏から、社内異動による辞退の申し出があり、TBSの高成麻畝子氏に新たに委嘱し、さらに新任として、テレビ東京の岡部紳二氏に委嘱し、計6人の選考委員となる。

 

☆選考委員

倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 代表取締役会長

次屋 尚(つぎや ひさし)   日本テレビ放送網株式会社 制作局プロデューサー

森安 彩(もりやす あや)   株式会社共同テレビジョン 第1制作部プロデューサー

岡部 紳二(おかべ しんじ)  株式会社テレビ東京 編成局次長兼ドラマ制作部長

高成 麻畝子(たかなり まほこ)株式会社TBSテレビ 制作局ドラマ制作部プロデューサー

菅野 高至(すがの たかゆき) プロデューサー

 

選考経過

3月12日(土)夕方より、事務局隣りの会議室で選考会が行われた。

議論は「ラギッド」「佐知とマユ」She」の3作品に集中し、最終的には、「佐知とマユ」の足立紳さんと、「She」の安達奈緒子さん、お二人に絞られた。

議論は三点――(1)「佐知とマユ」は一般公募の脚本賞受賞作で、市川賞として成立するか否か、(2)足立氏は、ヨコハマ映画祭脚本賞と日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞して、ある種ブームだが、便乗したと受け取られないか、(3)NHKの単発オリジナル枠と、民放の編成主導の連ドラ枠が、同じ土俵で議論しうるのか――であった。

また、「この脚本賞をどう捉える」が議論になり、渡辺理事より「市川賞に、市川さんらしさの作風だけを意識しないで下さい。本人はもとより、ドラマ界への期待も込めて、創作の志と強さで選んで欲しい」との提案があった。

議論の末に、「佐知とマユ」の脚本は抜群の仕上がりで、足立さんには、人物の多彩な表現力と巧みな構成力が備わり、次代を背負って活躍できるものと高く評価され、全員一致で、理事会報告の受賞候補者に決まる。

 

理事会の承認

3月15()午前1030分より開かれた第11回理事会で、選考委員長より選考経過と受賞者が報告され、出席の理事が協議の上、足立紳氏の受賞が承認される。

 

選考理由

豊かなチャレンジ性と物語性に溢れた足立 紳さんの脚本には、人物の多彩な表現力と巧みな構成力があり、次代を背負って立つと高く評価された。

 

(選考委員長 菅野高至)

  第4回「市川森一脚本賞」受賞 <記者発表>

3月31日(木)午後1時より、東京渋谷・NHK放送センター14階の「記者クラブ」で、財団常務理事・渡辺紘史より第4回受賞者の発表があり、続いて受賞者・足立 紳さんの記者会見が行われました。

  選考委員 <選評・プロフィール>

  ■ 倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 代表取締役社長


足立紳氏の「佐知とマユ」の魅力は、その簡素な構造にある。なかでもト書きを最小限度に抑えることで、演出と俳優の想像力をかき立て、脚本から解き放つ自由さを持っている。逆に言えば演出や演技が試されるこわい脚本だ。

 幼い頃母親に捨てられ家族を持たない佐知と、妊娠して男に捨てられホームレスになったマユとの突然始まった共同生活の成り行きは、オーソドックスだがそれゆえパワフルだ。

 

 この国で進行する格差と他人に対する不寛容さは、私たちを息苦しく生きづらくさせる一方だが、作者の視座は社会の底辺に落ちてしまいそうな弱者にある。氏の作風はテレビドラマの本流を汲むものだけれど、果たしていまの連ドラの要求に応えられるだろうか、と案じたが、テレビがダメならネットがあるさと、背中を押したい。

 

 高橋悠也氏「ラギッド」は達者な手法による娯楽作。熟練工として戦後の高度経済成長を支えた老人たちが少女と組み、騙しのテクニックで彼女の父の仇を討つ。次々と繰り出されるアイデアとスピーディな展開には目を見張らせるものがある。

 今作は手の込んだフィクションで現実原則を変えてしまう映画「スティング」を連想させる。どこかハリウッドの匂いがする。それもその筈、道具立てにリンカーンコンチネンタル、ケネディ暗殺、マフィア、マネーゲームと<アメリカ>を織り込んでいる。その分日本人がテレビドラマに求める“あるある感”や感動湿度は少ない。

だが、それは今作の欠点ではない。虚構の力こそ信じるに足るという作家の思いが伝わってくるからだ。

 

 「She」の安達奈緒子氏は本賞第一回の候補者である。今作ではSNSを大胆に駆使した冒険的作品となった。女子高生あづさの失踪をめぐって、クラスメイトたちが銘々に謎解きをしていく構成に氏の底力を見た。しかし、最後に明らかにされる失踪の理由が文学的に過ぎ、私には難解だった。


<略歴>1949年生まれ。1971年4月(株)テレビマンユニオン入社。1988年4月(株)アマゾン設立代表取締役。2010年4月(株)アマゾンラテルナ設立代表取締役社長。2012年4月全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)理事長就任。主な監督・演出作品に、『日本のいちばん長い夏』(2010)、『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)、『母とママと、私』(2007)、「ドラマスペシャル『炎の料理人 北大路魯山人』」(1987)『四谷怪談〜恐怖という名の報酬〜』(2003)ほか。

 

 

 

  ■ 次屋 尚(つぎや ひさし)  日本テレビ放送網株式会社 プロデューサー


選考にあたり、僕は映像化されたドラマを参考にせず、純粋に読み物としての脚本を読ませていただき判断するよう努めています。なんせ脚本賞なのですから…。無論脚本とは読み物という作品でありながら、映像化されることを前提とした設計図でもあるわけで、そこには映像化へ向けての作者の目論見が必要です。

 

「佐知とマユ」は、読み物としての風情と設計図としての企みを持ち合わせており、それが受賞作に推した大きな理由です。

さらに物語が亜流ではなく、自らが紡ぎ出したストーリーと言葉(セリフ)で成り立っているように感じられます。さらに予定調和でも大団円でもないところが好きです。地味で暗い印象ながら、かなり尖った作品性をもってます。

 

物語を通じて、普段接することのない現代社会に起きている知りえなかった現象や、想像できなかった人の心(感情)に触れることもでき、テレビというメディアで発信する意義深い作品と言うこともできます。…ちょっと褒めすぎました。

 

さてさて、市川森一脚本賞も今回で第4回となりました。

あらためまして、足立さん受賞おめでとうございます。とてもうらやましいです。この市川森一脚本賞を受賞することは、他のどの脚本賞をゲットすることよりもカッコよかったりするのですヨ。

 

文学賞でいうならば、権威があって有名なのは、もちろん芥川賞であり直木賞なのでしょうが、個人的には<泉鏡花文学賞>というものにこの上なく憧憬の念を抱いていたりします。

 

つまり、そういうことです。こだわりの深い作品性を求めるマニアは、賞にもこだわりがあるのです。市川森一の名前の付いた脚本賞を手にしたことはドラマを愛する者にとってはとてつもなく誇り高いことなのです。

財団の方々や選考委員たちもドラマを愛してやまないこだわりの面々です。その深い眼差しで、この先も脚本と脚本家をみつめていきます。足立さんの今後のご活躍を期待しております。


<略歴>1965年生まれ、愛媛県出身。早稲田大学演劇専修卒業後、木下プロダクションなど制作会社を経て、2005年日本テレビ放送網㈱入社。主なプロデュース作品:連続ドラマ「アイシテル~海容~」(2010)、「Mother(2011)、「デカワンコ」(2011)、「東京全力少女」(2012)、「Woman」(2013) 、「戦力外捜査官」(2014)、SPドラマ「さよならぼくたちのようちえん」(2011) 、など。近年は伴一彦脚本作品、坂元裕二脚本作品の多くを手掛ける。

 

 

 

 

  ■ 森安 彩(もりやす あや)  株式会社共同テレビジョン プロデューサー


「佐知とマユ」を読み終わって、なんて無駄のない脚本なんだろう、と思った。

最近はとにかく文字が多いものを読むことが多く、足立さんのすっきりとした文体がとても新鮮だった。よくよく考えてみれば、10数年ぐらい前までは脚本ってこんな感じだった気がする。

いつの間にか読み手に伝わらないことを恐れてか、過剰に台詞やト書きが書き込まれた脚本が増えてきているように思う。

 

「佐知とマユ」の脚本で最も好感が持てたのは、脚本家が自分の想いを込めながらも、一方ではきちんとこの作品を具現化してくれる監督や現場スタッフを信頼し、託しているところだ。

それはとても勇気がいることであり、届けたいメッセージがきちんと見えていなければできないことだと思う。

 

これまでの市川森一脚本賞は『動』のエネルギーみなぎる作品が多かったが、今回の足立さんの受賞で『静』のエネルギー、真摯なひたむきさある新しいタイプの大賞の誕生に思えます。

今後は足立さんに、もっともっとテレビの世界でも腕を振るっていただきたいです。期待しています。


<略歴>1999年株式会社共同テレビジョン系列会社、㈱ベイシス入社。以来共同テレビジョンドラマ部にてドラマを制作。APを経て、2003年プロデューサーデビュー。代表作品は<連続ドラマ>ANB「エースをねらえ!」、CX「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」「赤い糸」「絶対零度~未解決事件特命捜査」「カラマーゾフの兄弟」「家族の裏事情」「SMOKIG GUN~決定的証拠~」「心がポキッとね」「ふなっしー探偵」、TBS「もう一度君に、プロポーズ」<SPドラマ>CXWATER DOYS 2005夏」「美ら海からの年賀状」「山峡の章」「積木くずし」。

 

 

 

 

  ■ 岡部 紳二(おかべ しんじ)  株式会社テレビ東京 編集局次長兼ドラマ部長


「佐知とマユ」は、“今”を抉り出すという「オリジナル・テレビドラマ」の最大の強みを約50分のコンパクトな世界に凝縮させ、テレビドラマならではのヒリヒリ感を、久々に感じさせてくれた。

 

母親に捨てられた20歳の主人公、左知。生まれてくる赤ん坊を捨てるつもりでいる17歳の家出少女、マユ。色々なことを諦めてこれまで生きてきた二人の日常は、あくまでもドライで、背筋が寒くなるような感覚の中、目が離せない。

そして、新しい命が孤独な魂に生命力を吹き込み、殺伐とした青春を生きる二人が、絆を見出し再生する……。

「現代の希望の物語」を冷徹な目線で生々しく、瑞々しく描いた素晴らしい作品だ。

 

「ラギッド」は、小学生の少女が自動車工場の社長に就任するという設定がファンタジーすぎる印象。残念ながらチョイ悪の中高年たちがカムバックする展開にも既視感がある。

 

「トランジットガール」は、連れ子同士の義理の姉妹が恋に落ちる掴みは新鮮。ただ周囲の大人や同級生たちが“いい人すぎる”ので対立や破綻がない。二人が結ばれた後の展開に意外性がほしかった。

 

「She」は、同級生たちの秘密を紐解きながら進むサスペンスに緊迫感があり、視る者の予測を裏切る展開もうまい。ただ多少テクニックに走りすぎて、物語のテーマやコンセプトがぼやけた感がある。


<略歴>1988年東京都立大学経済学部卒後、㈱テレビ東京入社。人事部、ニュース報道部、編成部、バラエティー制作等を経て、01年よりドラマ制作部にてプロデューサーに。0510月期より、深夜枠『ドラマ24』を立ち上げる。主な担当作品:「北朝鮮拉致・めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」(03)「嬢王」(05)「上を向いて歩こう~坂本九物語~」(05)「モテキ」(10)「三匹のおっさん」(14)「永遠の0」(15)「釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助」(15

 

 

 

 

  ■高成 麻畝子(たかなり まほこ)   株式会社TBSテレビ プロデューサー


それぞれに鮮烈で個性的な才能を感じ、最後まで悩ましい選考となった。

 高橋悠也さんの「ラギッド!」は、確かな構成力に魅力的なキャラクター設定、それに「007」シリーズやカーマニアなど、隠し味の妙が合わさった楽しい活劇だった。高齢者と子どもという組み合わせも発想として面白い。

台詞がやや古くさいのと、登場人物が整理しきれていない点が残念で、今後は「削ぎ落とすこと」も考えに入れて書いて欲しい。

 

 加藤綾子さんの「トランジットガールズ」は、今注目のセクシャルマイナリティに光を当てた意欲作。「人が人を好きになる」という単純でありながら、説明のつかない感情の深まりが、透明感と清潔感を持ってリリカルに描かれていた。だが、テーマへの踏み込みが甘く、ドラマが浅い印象になった。キスシーンに頼らずに、性的アイデンティティの目覚めを描く手法を編み出して欲しかった。脚本家のオリジナリティは、そういうところに生まれるのだから。

 

 足立紳さんの「佐知とマユ」と安達奈緒子さんの「She」は拮抗していたが、テーマへの踏み込みという点で、足立さんに軍配が上がる。

他の三作品がカッコよく(今っぽく、と言ってもいいかもしれない)まとめようとするのに対して、「佐知とマユ」には一種の凶暴さが漂っており、泥臭いまでのテーマに対する執着があった。

結果として、作家性を最も強く感じさせる作品になった。

 

安達さんの「She」は対照的に、ミステリーの形式で「教室」という特殊な空間を、クールに切り取ることで、現代の高校生たちの生々しい「今」を表現してみせた、いわば間接話法だ。

非常に洒落た手法でありながら、実際の教室にいるような感覚を、何度も味わわせる不思議な力を持つ脚本だった。その力の源泉はなんと言っても台詞にあると思う。今回は惜しくも大賞を逃したが、今後が非常に楽しみな脚本家である。


<略歴>お茶の水女子大学芸術教育学修士課程卒。1998年TBSテレビ入社。バラエティ制作を経て翌年ドラマ部に配属。00年「きみはペット」でディレクターデビュー。「末っ子長男姉三人」「スキャンダル」「パパとムスメの七日間」「ヤンキー君とめがねちゃん」「レジデント~5人の研修医」などを演出。08年からプロデューサーも兼務。「Around40~注文の多い女たち」で初プロデュース後、「スマイル」「恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方」「アリスの棘」「表参道高校合唱部」など。

 

 

 

 

  ■ 菅野 高至(すがの たかゆき)  市川森一脚本賞財団 事務局長&選考委員長


 高橋悠也さんの「ラギッド!」を読んで思う。ピカレスクロマンを作るのは難しい、洒落て作るのはなお難しい、と。要は、一人一人、人物の造形をどう深めるかです。ヒロインに『ノアの方舟』から発想した『乃亜』という名を付けたのは作者のあなたですが、それでは、乃亜の父親はどんな想いで、我が子にかくも言いにくい不思議な名を付けたのでしょうか? 理由はあるのでしょうね。

 

 加藤綾子さんの「トランジットガールズ」。僕は填まりました。わけても、小百合を演じた伊東沙莉のしゃがれ声に痺れました。二人のガールズラブを、もっと見たい、社会的な拡がりの中に置いて、二人は家族や友人たちとともに、どう闘うのかを見てみたい、と思いました。25分の全8回ですが、もう少し深く語れたのでは、と思うのです。

 

 安達奈緒子さんの「She」、25分の全5回は、やはり短いのです。ラスト、いなくなった彼女(あづさ)に会いたい、語って貰いたい、そう願う気持ちを抑えきれませんでした。高校3年の彼女たちの台詞が生き生きとして、感動モノだっただけに、なおのこと彼女の真意が知りたくなりました。

 

 足立さんの「佐知とマユ」。深夜スーパーで働く主人公の佐知は、冒頭から暫く、台詞が殆ど無い。

最初の台詞が4頁の「・・・76円です」、次が5頁の「・・・お疲れ様です」。台詞らしい台詞は、やっと9頁の「まるでノラ猫だ・・・」、マユを評したモノローグのひと言だ。喋らないことで、他者との関係を断ち切ってきた、佐知の現在を表現しています。

因みに、全体の頁数は55頁ですが、出だしをヒロインにろくに喋らせない、こんな怖い冒険というか挑戦は、僕には出来そうも無い。このストイックさこそ、今のテレビドラマに必要です。

 

選考委員の誰もが、類い希な逸材をテレビドラマの世界に是非ともお招きしたい、そう考えました。

おめでとう足立さん! テレビドラマにようこそ。

 

オリジナル脚本が少ない時代だからこそ、オリジナルに拘る市川森一脚本賞に意義がある、そう考えて、今年も選考の場に臨みました。そして、本賞を贈賞することが出来たことに、ほっとしています。来年も、この思いが続くことを願っています。

 

 最後になりましたが、日々多忙なプロデューサーを選考の場に送り出してくれた、アマゾンラテルナ、日本テレビ、TBSテレビ、テレビ東京、共同テレビジョンに心より謝意を表したい。また、候補作の脚本とDVDの貸与の労をとって下さった、NHK、フジテレビ、日テレアックスオン、NHKエンタープライズ、共同テレビ、イースト・エンタテインメントの各社に深く感謝したい。

そして何より、基金を拠出して頂いた会員、賛助団体会員の皆さまに、心より御礼を申し上げます。 


<略歴>70年NHKに入社。「ドラマ人間模様」、朝ドラ等の演出を経て、88年よりプロデューサー。「純ちゃんの応援歌」(88年)、「むしの居どころ」(92年、芸術作品賞受賞)、「私が愛したウルトラセブン」(93年)、「清左衛門残日録」(93年、芸術作品賞受賞)、「トトの世界」(01年)、「蝉しぐれ」(03年)など。08年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。115月に退職し、フリーのプロデューサーに。

 

  第4回「市川森一脚本賞」受賞候補者(放送順)

高橋 悠也  NHKBS「ラギッド!」(89×2回、2/21~)

 

足立  紳  NHK総合「佐知とマユ」(50分、3/17

 

安達 奈緒子 フジテレビ「She」(25×全5回、4/18~)

 

加藤 綾子  フジテレビ「トランジットガールズ」25×8回、11/7~