■■■【第3回】市川森一脚本賞  ■■■

< 奨 励 賞 >




バカリズム 氏

 

素敵な選TAXI(連続10回)
関西テレビ、2014年10月期~火曜10時



宇田 学 氏

 

悪夢(54分)
NHKEテレ、2014年12月5日~バリバラ特集ドラマ


  第3回「市川森一脚本賞」<奨励賞> 受賞者・紹介

 バカリズム 氏


<受賞対象作品>
素敵な選TAXI(全10回)関西テレビ放送 2014年10月期~火曜10時
(出演/竹野内豊、安田顕、南沢奈央、バカリズム 他)
不思議な乗り物「選TAXI」の運転手はクールな外見だが話し好きでお節介、人生の選択に失敗して焦る乗客(各回ゲスト)を、望む過去まで連れて行く・・・。
カフェ店長で本人が出演。


<略歴>

1975年生まれ。1995年『バカリズム』を結成。2005年12月よりよりピン芸人として活動。

TVレギュラー番組のほか、定期的に単独ライブ開催、チケットが即完売の人気を誇る。

他にも、ナレーション、役者、脚本、イラスト、書籍など多方面で活躍。


~主なテレビドラマ作品~

「世にも奇妙な物語 2012年 秋の特別編『来世不動産』」(2012年、フジテレビ)

 

 宇田 学 氏


<受賞対象作品>
悪夢(54分)NHKEテレ 2014年12月5日~バリバラ特集ドラマ
(出演/ハウス加賀谷、あべけん太、片山真理、カンニング竹山 他)
テレビ史上初!? の統合失調症×ダウン症のハートフルコメディー。幻覚のため、どこにも雇って貰えない男が、様々な障害のある人たちとの交流を通して生きる自信を取り戻す・・・。


<略歴>

1977年生まれ。2000年、劇団PEOPLEPURPLEを旗揚げ、代表になる。全作品の脚本・演出を手掛け自らも役者として活躍する。代表作「ORANGE」(阪神淡路大震災の消防隊・救助隊の活躍を描く)。

 

~主なテレビドラマ作品~

「TOKYO コントロール 東京航空交通管制部」(2011年、フジテレビNEXT)

「TOKYOエアポート 〜東京空港管制保安部〜」(2012年、フジテレビ)

「ボーダーライン」(2014年、NHK)

「ORANGE 〜1.17 命懸けで闘った消防士の魂の物語〜 」(2015年、TBS)

 

  第3回「市川森一脚本賞」<奨励賞>選考理由と経過

 

選考理由


 バカリズムさんの作品には、テレビドラマのフィールドが限りなく広がる夢があふれています。
 宇田学さんの作品には、人間の内面を捉まえようとする豊かなチャレンジ性があふれています。
 お二人とも、今後の将来性も十分あり、次回以降の受賞も期待できると高く評価され、奨励賞を贈賞することになりました。

 

 

選考経過


■ 候補者3名の選出

 2015年1月上旬、2014年1月1日~12月31日に配信された映像ドラマから、選考担当の菅野が3人の候補者をリストアップし、高橋理事、渡辺理事が了承し、3名の候補者と対象作品を選びました。

<選考基準>は例年通り、<プロデビュー10年程度以内で、オリジナル作品を執筆し、
受賞を機に将来さらに大きく伸びると期待される人で、「市川森一」の名にふさわしく、
<物語性>や<夢・異空間>、さらに<挑戦>しているか否かを考慮します。

 

 
■ 選考会の報告

 選考委員は、候補作の全脚本とDVD(連ドラは4話程度)を視聴して、3月17日(火)夜の選考会(加瀬ビル161)に臨みました。尚、次屋氏は収録ため選考会を欠席、書面による参加となります。

 議論は、「素敵な選TAXI」と「悪夢」の2作品に集中し、バカリズムさん、宇田学さん、お二人に絞られ、バカリズムさんの時制を縦横に移動する巧みな会話劇、宇田さんの人間の内面に迫ろうとする熱さ、ともに評価は高かったのですが、残念なことに今一歩、受賞には及ばないとして、選考会では受賞者無しとなります。

 


■ 理事会の決定

 3月23日(月)午前11時より開かれた第8回理事会で、選考会の報告を受けて、出席の理事が協議の上、全員一致で、「素敵な選TAXI」のバカリズムさん、「悪夢」の宇田学さん、お二人に「奨励賞」として、賞金各30万円を贈賞することが決まりました。 

         

  選評 <選考委員・プロフィール>

  ■ 倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 代表取締役会長


  今回候補となった三氏とも、演劇やバラエティの分野では一定の評価を得られていて、脚本一筋でやってきた方々ではない。若手ライターのオリジナル脚本によるドラマが少なくなっている昨今、異なるジャンルで活躍する人たちに門戸を開いた放送局や制作陣のチャレンジ精神にまずは拍手を送りたい。

 宇田学氏の「悪夢」は障害者週間の特集として障害者を主人公にすえた異色のドラマである。統合失調症の主人公がダウン症や脳性麻痺、歩行障害、全盲などの人間と関わるうちに自らの居場所を発見していくストーリー。
 このドラマの根底には、出演者でもある障害者が自らを肯定する証言も交えながら、「健常者のあなたには居場所があるのか?」という問いがあり、存在のありかが不確かになっている私たち自身にメッセージが向けられている。
 宇田氏のもう一つの作品「ボーダーライン」も、与えられた環境に馴染めず人間関係を切り結ぶことができない青年が主人公で、「悪夢」同様氏の問題意識が発露された脚本だが、全5回のシリーズで居場所探しの決着が不発に終わっているように思えた。

 バカリズム氏の「素敵な選TAXI」(全10回)は、シチュエーションの設定においてオリジナリティの点で随一であり、キレもテンポもある才気煥発の娯楽作である。本編中にチャート図が挿入されるなど遊びの趣向もふんだんで楽しめる。既存のドラマ作法にあきたらない氏の野望かと大いに期待したが、回を重ねるうちに私の思いはすぼんでいった。もし本作が単発作品だったらいちばんに推していたと思う。

 今回、候補作4本に共通して気になったのは予定調和的な結末だった。問題提起には必ず前向きな解決が用意されなければいけないというのは病ではないのか、それがなければ視聴者が納得しないというのは制作側の思い込みではないか。
 "安心、安全"な解決を不可欠とするドラマは、2020年をゴールと定め希望でしか語らない日本の姿と似ている。


<略歴>1949年生まれ。1971年4月(株)テレビマンユニオン入社。1988年4月(株)アマゾン設立代表取締役。2010年4月(株)アマゾンラテルナ設立代表取締役社長。現・代表取締役会長。2012年4月全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)理事長就任。主な監督・演出作品に、『日本のいちばん長い夏』(2010)、『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)、『母とママと、私』(2007)、「ドラマスペシャル『炎の料理人 北大路魯山人』」(1987)『四谷怪談〜恐怖という名の報酬〜』(2003)ほか。

 

 

 

  ■ 次屋 尚(つぎや ひさし)  日本テレビ放送網株式会社 プロデューサー


 まずは奨励賞受賞おめでとうございます。なにはともあれ候補作の中からお二人が勝ち残ったという事実は変わりありません。ましてや来年、今度は本賞を狙うチャンスがあるということにもなりますからお得ですね。

 僕が市川森一作品に傾倒していったのは、その作品全体を覆っている、ある種のメルヘンであり、ファンタジーであり、ロマンであり、その世界観がたまらなく好きだったからに他なりません。虚と実を往き来するような心地良い感覚に酔わされながら、知らぬ間に心に突き刺さる真実の人間像、その本質。ときに勇気付けられ、教えられたり、なぐさめられ……、それが市川作品の魔力だと思います。また、人類が古来から持ち合わす、‟ものがたり”というものの存在理由だと思っています。今回ご受賞されたお二人の作品に、その市川森一イズム(造語です)の資質を(勝手に)感じ取ったことがお二人を推した理由です。

 宇田さん、次に宇田さんが一番やりたい世界観をドラマにできるチャンスに巡り合うとき、大きな飛躍の一歩があるような気がします。ちょっと上からの物言いでゴメンナサイ。バカリズムさん、あなたの持つ才能を是非、このテレビドラマ界に注いで頂きたい。その願いを込めてのご受賞と捉えていただけると幸いです。

 気が付いてみると、メディアの多様化や私的録画技術の進歩が一役買って、テレビドラマは多様化の方向へ、うまくころがり始めているんですね。いろんな趣向の様々な志をもつ作品や脚本家が、日の目を見て活躍しやすい時代と言っていいと思います。その波に乗り、今後お二人がいっそうご活躍することを期待しております。


<略歴>1965年生まれ、愛媛県出身。早稲田大学演劇専修卒業後、木下プロダクションなど制作会社を経て、2005年日本テレビ放送網㈱入社。主なプロデュース作品:連続ドラマ「アイシテル~海容~」(2010)、「Mother」(2011)、「デカワンコ」(2011)、「東京全力少女」(2012)、「Wooman」(2013) 、「戦力外捜査官」(2014)、「Dr.倫太郎」(2015)、SPドラマ「さよならぼくたちのようちえん」(2011) 、など。近年は伴一彦脚本作品、坂元裕二脚本作品の多くを手掛ける。

 

 

 

  ■ 今井 夏木(いまい なつき)  株式会社TBSテレビ 演出家&プロデューサー


宇田学さん
 「ボーダーライン」は宇田さんが戯曲「ORANGE」で培った消防の知識を生かした脚本でしたが、話の展開、カタルシスを作って盛りあげようとした結末が、気持ちよく受け入れられませんでした。
 「悪夢」は障害を抱えた人たちがそのパーソナリティを生かして出演するというドキュメンタリー的要素に、食べたら障害が直る果実というファンタジーを加えたアイディアのバランスが面白いと思いました。
 が、「ボーダーライン」同様、ラストで決着をちゃんとつけようと、いい話にまとめていることで、作品が小さくなってしまって、もったいないです。
 出演者の生の声を盛り込んだ鮮烈なドキュメント部分があるのですから、それに勝らずとも劣らない、ドラマというフィクションだからこそ描けるヴィジョンを見せて欲しかったな、と残念に思います。
 まとめるのではなく、宇田さんの熱でラストまで駆け抜けたシナリオを読んでみたいです。
奨励賞受賞おめでとうございます。

バカリズムさん
 読んでいて一番楽しかったです。会話も、シーンの落ちも面白い。
 ただそれはコント的な面白さで、この作品の決まりごとを構築し、それをどう遊ぶかに終始してしまっているように感じられました。
 面白いことをやりたいという気持ちに溢れていて素敵だなあと思うのですが、バカリズムさんの物語を紡ぎたいという気持ちはどうなのでしょうか。
 奨励賞を受賞された事も力にして、これからもどんどんシナリオを書いて戴きたいです。
 次回作からは、どんなものが飛び出すか、楽しみにしています。

池谷雅夫さん
 今まで戯曲を書いて来たスキルを生かした、生前葬というワンシチュエーションを主の舞台とする脚本でしたが、その生前葬という際立ったトピックを生かしきれておらず、めでたしめでたしの結末になってしまっているのが残念です。
 映像をイメージして書いてみると、池谷さんのシナリオは、また違った面白みが出てくるのかな、とも思いました。


<略歴>1994年早稲田大学第一文学部演劇専修卒業後、TBSテレビ入社。95年よりドラマ制作部配属。代表作は「3年B組金八先生~第5、8シリーズ~」(1999-2000,2007-2008)、「ヤンキー母校に帰る」(2003)、「恋空」(東宝映画2007)、「SPEC」(2000-2013)、「ブラックボード〜時代と戦った教師たち〜」(2012)、「まっしろ」(2015)ほか

 

 

 

 

  ■ 森安 彩(もりやす あや)  株式会社共同テレビジョン プロデューサー


 今年は数少ないノミネートでした。毎年どんどんオリジナルドラマが減ってしまっているのかと思うととても残念です。日本のテレビドラマの未来のためにも、クリエイターの皆様にはぜひめげずにオリジナルをどんどん生み出し、自分たちの世界観をとことん追究していただきたいなと思います。私自身もますます頑張らねばと気が引き締まりました。

 今回読ませていただきました宇田学さんの「悪夢」、とても難しい題材にチャレンジされていて、驚きました。この作品では客観的にではなく、当事者の目線、感覚で、障害を持つ方々の想いを伝えようとしており、その試みは素晴らしいと思いました。
「ボーダーライン」もとても熱を感じる作品でした。
 次の作品ではより強い宇田さんご自身の個性やメッセージ性を期待しております。

 バカリズムさんの「素敵な選タクシー」、大変楽しく拝見いたしました。会話がとても洗練されていてテンポもよく、それでいてコンセプトはわかりやすく、展開も明快でエンタテイメント性に富んだ作品だったと思います。ストーリーのバリエーションも豊富で飽きることはありませんでした。「素敵な選タクシー」はライトにコンセプトを楽しんでもらうのが狙いの作品だったと思いますが、欲を言えば、次はぜひテーマ性重視のバカリズムさん作品を見てみたいです。
 バカリズムさんならではのテーマ性あるファンタジーを楽しみにしております。


<略歴>1999年株式会社共同テレビジョン系列会社、㈱ベイシス入社。以来共同テレビジョンドラマ部にてドラマを制作。アシスタントプロデューサーを経て、2003年プロデューサーデビュー。代表作品は<連続ドラマ>ANB「エースをねらえ!」、CX「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」「赤い糸」「絶対零度~未解決事件特命捜査」「カラマーゾフの兄弟」「家族の裏事情」「SMOKIG GUN~決定的証拠~」「心がポキッとね」、TBS「もう一度君に、プロポーズ」<SPドラマ>CX「WATER DOYS 2005夏」「美ら海からの年賀状」「山峡の章」「積木くずし」。

 

 

 

 

  ■ 菅野 高至(すがの たかゆき)  市川森一脚本賞財団 選考委員長&事務局長


 おめでとう、バカリズムさん! 宇田さん!

 2014年の候補作を探していると、聞こえて来ました。「オリジナルを書かせてください!」若い脚本家のそんな悲鳴が聞こえてきました・・・。

 田舎の母が仕掛けた生前葬の一日を描く、「お葬式で会いましょう」。登場人物にはそれぞれ背負うものがあり、細部にも工夫が光る脚本である。池谷雅夫さんが書きたかった家族、惚れ込んで書いた家族は、本当にこういう家族なのでしょうか、そんな疑問がふと浮かびました。

 宇田学さんの原点は、阪神淡路大震災に直面した消防士たちの姿を描く、戯曲「ORANGE」です。初演は2004年ですが、私は2008年の池袋と、2011年渋谷で音尾琢真主演を見ています。
共に力作です。彼のライフワークです。

 一転、テレビドラマ「ボーダーライン」では、<使命感に疑問を抱く>、今どきの若者を主人公に据えます。シノプシスが出来かけたところで、共作となり、女性の視点が加わります。共作は難しいですね、回を重ねると若者は好青年に変わります。

 バリバラ特集の「悪夢」は、宇田さんの冒険です。直球の冒険です。生きてきた記憶と統合失調症という障害、どちらを選択するのか、凄いテーマを見つけたものです。

 最後までテーマの一点に絞って書き切れなかったのは、取材を厭わずに書く宇田さんが、優しいが故に、取材したことを丸ごと引き受けようとしたからではないでしょうか・・・。
 作家はある意味で、もっと傲慢でいいと思います。

 バカリズムさんの「素敵な選TAXI」。人生、もし、やり直せるのならやり直したい、誰もが抱くこの妄想が叶うとしたら・・・。放送時、毎週見ていて、その工夫ぶりがなんとも素敵で楽しいドラマでした。ゲストの役者さんの力量次第で、作品の出来不出来が決まる、役者さんにはやりがいのある企画に思えました。

 ところが、脚本を読んでみると、役者さんだけでなく、演出も試されているのだと分かります。
 デジタルじゃないぞ、なんたってアナログだぞ! バカリズムさんの挑戦に、制作の現場はワクワクするような楽しさが溢れていたに違いありません。
 この作品は、まだまだ発展途上だと思います。テレビドラマの可能性を豊にするような、『続編!』を期待しています。

 オリジナルを一人で書くのは、ほんの一握りの脚本家だけで、事件ものが溢れる状況の中で、この二本の「市川森一脚本賞・奨励賞」は価値がある、そう信じています。
 おめでとう、宇田さん、バカリズムさん!

 最後になりましたが、日々、多忙なプロデューサーを選考の場に気持ち良く送り出してくれた、アマゾンラテルナ、日本テレビ、TBSテレビ、共同テレビジョンに心より謝意を表します。
 また、候補者の脚本とDVDの貸与の労をとってくれた各プロデューサー、NHKドラマ番組部、NHK大阪放送局、関西テレビ放送の各社に深く感謝します。

 そして何より、基金・寄付金を拠出して頂いた会員、賛助団体会員のみなさまに心より御礼を申し上げます。


<略歴>70年NHKに入社。「ドラマ人間模様」、朝ドラ等の演出を経て、88年よりプロデューサー。「純ちゃんの応援歌」(88年)、「むしの居どころ」(92年、芸術作品賞受賞)、「私が愛したウルトラセブン」(93年)、「清左衛門残日録」(93年、芸術作品賞受賞)、「トトの世界」(01年)、「蝉しぐれ」(03年)など。08年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。11年5月退職。

  第3回「市川森一脚本賞」受賞候補者



■池谷雅夫  NHK「お葬式で会いましょう」全1回(68分、8/22)

■宇田 学  NHKEテレ「悪夢」全1回(54分、12/5)

              NHK大阪「ボーダーライン」全5回(10/4-11/1)
                         ※執筆回は、1・2・4・5回、 なお、第4回は共同執筆。

■バカリズム 関西テレビ「素敵な選TAXI」全10回(10/1412/16)
                           ※第6話、最終話は共同執筆。