大島里美氏

 

【受賞の言葉】

この度は、ありがとうございます。
『恋するハエ女』は、「いい話ではなく、面白い話を書きたい」という思いでチャレンジした脚本でした。ホン打ち中、本当にたくさんの雑談につきあってくれ、また身を削って多くのネタを提供してくれたプロデューサー、監督、スタッフの皆さまに感謝しています。

市川森一先生のお名前の賞を頂くことは、喜びと同時に身の引き締まる思いです。
『黄金の日日』の石川五右衛門の最期のシーンの圧倒的な力強さ、
『淋しいのはお前だけじゃない』の登場人物たちの優しさとずるさと愛らしさ……
市川先生が書かれた、ただただ憧れてしまういくつものシーンに力をいただきながら、
目の前の物語の中で、一歩一歩挑戦していきたいと思っております。


<略歴>

1977年11月16日生まれ。栃木県日光市出身。
2004年第16回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作。
〜主な作品〜
連続ドラマ:『恋するハエ女』(12),『四十九日のレシピ』(11)――NHK

『早海さんと呼ばれる日』(12),『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07),

『1リットルの涙』(05)――フジテレビ
『グッドライフ 〜ありがとう、パパ。さよなら〜』(11),『リアル・クローズ』(08)――関西テレビ
単発ドラマ:『家で死ぬということ』(12,NHK),
『奇跡の動物園 〜旭山動物園物語〜』(08,10,フジテレビ)
映画:『ダーリンは外国人』(10),『カフーを待ちわびて』(11)
小説:『恋するハエ女』(12,ポプラ社)

 

「恋するハエ女」番組オフィシャルサイト

 

  ■ 倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 代表取締役社長


 脚本家とドラマの構想を練っていて、あるとき突然に「出来た!」と叫ぶ瞬間がある。暗闇を彷徨ったあげくにようやく光と遭遇する瞬間といってよい。それはドラマ作りの醍醐味である。
 今回、私はその「出来た」を探しながら対象作六編の脚本を読んだ。オリジナル脚本ならなおさらに、ドラマの作り手たちは何をもって出来たと叫んだのか、それを読み解こうと考えた。
 大島里美氏の「恋するハエ女」はコメディ仕立てにしたことで「出来た」のだと思った。これでドラマがカラフルになった。主人公の若い女性教師が政変に巻き込まれるなか、実はゲイであることがわかった総理の滑稽さや名声ある教育者である主人公の両親のそれぞれの不倫発覚騒ぎをドタバタ調で描く。「権威」を笑うばかりか、震災後この国の流行語となった「家族の絆」の虚妄性さえ衝こうとする。コメディ仕立てでなら許される毒(社会風刺)を盛り込んだといえる。また、異なる場所でメールを交わす人物同士がいつしか同一セットのなかにいるという演劇的な趣向があるかと思えば、フランスやイタリア、スペインの女性たちとの遍歴ぶりをスタジオバラエティ風に繰り広げたりする。オモチャ箱をひっくり返して並べたような構成で、この先どこへ連れて行かれるのかわからない意外性ある展開もおもしろかった。私は本作をいちばんに推した。
 テレビドラマが「わかりやすさ」という命題で作られているいま、今回の六編もその流れのなかにある。しかし、人間は決してわかりやすいものではない。人間のもつ不可解さこそドラマ作家が向き合うべきものなのだ。いま一度、市川森一の仕事を思いたい。


<略歴>1949年生まれ。1971年4月(株)テレビマンユニオン入社。1988年4月(株)アマゾン設立代表取締役。2010年4月(株)アマゾンラテルナ設立代表取締役社長。2012年4月全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)理事長就任。主な監督・演出作品に、『日本のいちばん長い夏』(2010)、『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)、『母とママと、私』(2007)、「ドラマスペシャル『炎の料理人 北大路魯山人』」(1987)『四谷怪談〜恐怖という名の報酬〜』(2003)ほか。

 

 

 

  ■ 内山 聖子(うちやま さとこ)  株式会社テレビ朝日  ゼネラルプロデューサー


 大島里美さん。「恋するハエ女」での受賞おめでとうございます。第一回ということで、審査する側も肩に力の入る選考でした。オリジナル連続ドラマの脚本で、各局の華やかなドラマ戦線で闘った力作たちが候補作として私の手の中にやってきてからは、本当に苦労の日々でした。脚本というものは、私のようなプロデューサーや監督たちと度重なるセッションの末に形になるものなので、脚本家がはじめに書いたものが、どれほど原型をとどめていないものかよくよく理解したうえで、脚本家自身が「どこまで自分の意地を通しているか」「キャストやスタッフに書かされすぎてないか」に重点をおいて選考いたしました。選考基準もまだ定まっていない中でしたので、審査員も皆、悩みながらの審査会になりました。
それぞれに力強いところがあった中で、最終的に大島さんのこの作品が選ばれたのは、
「テレビドラマの枠を少し超えている」感じがしたことです。よく言えば、挑戦的。悪く言えば無謀。自分がプロデューサーであれば「絶対に出来ない」作品質だったように思います。市川森一先生は一度お仕事をさせていただいた時に、「いかに視聴者をびっくりさせるか」楽しんでいらっしゃいました。プロデューサーの自分も、その観点を忘れずに脚本家と向き合っていこうと改めて思う審査会でした。


<略歴>1965年福岡県生まれ。88年津田塾大学卒業。テレビ朝日入社。秘書室勤務の後、93年より編成制作局ドラマ制作部。プロデューサー代表作は「ガラスの仮面」(97年・安達祐美主演)「黒革の手帖」(2004年・米倉涼子主演)「交渉人」(08年)「必殺仕事人」(07年・東山紀之主演)。最新作は「ドクターX~外科医・大門未知子」。エランドール賞プロデューサー奨励賞2012・放送ウーマン賞2012・日経エンタテイメント2012ベストクリエイター準グランプリなど受賞。

 

 

 

  ■ 次屋 尚(つぎや ひさし)  日本テレビ放送網株式会社 プロデューサー


脚本賞の選考会、自分がおもしろいと思って気に入った作品(作家)に一票投じればいいくらいに考えてました。でも間違ってましたね。

今テレビドラマはその立場がとても難しい時代を迎えています。ドラマを発信する源(脚本家)が世の中へ与える影響力がどんどん衰退してきています。無論それは脚本家の力量の問題ではなく、テレビというものの持つ、世の中への影響力の衰退に他なりません。
そんな時代にあって我々はどんなドラマを志し、どんな脚本を讃えればいいのでしょう。
そんなことを考えてると、いくら上手に書きあげた脚本も完成度の高い脚本も、追いかけてはいけない夕陽の残照を眺めているようで物足りなく感じてしまいます。
 
おおよそ人は自分が出来ないようなことをやってのけた人を尊敬し、自分が考えつかなったようなことを発想する人に敬服したりするものです。この度の受賞作はそういう観点・価値観で選出された作品と言えるでしょう。少なくとも僕にとってはそうなのです。
常に新しい時代を見据え、チャレンジ精神を忘れなかった市川森一師の名における賞に相応しい作品(作家)が選ばれたことと信じます。この思いはこの作品を産み出した脚本家とそれを世に送り出したスタッフたちへ贈るエールであり、プレッシャーでもあるつもりです。


<略歴>日本テレビ制作局プロデューサー。1965年生まれ、愛媛県出身。早稲田大学演劇専修卒業後、木下プロダクションなど制作会社を経て、2005年日本テレビ入社。主なプロデュース作品:連続ドラマ「アイシテル~海容~」(2009)、「Mother」(2010)、「デカワンコ」(2011)、SPドラマ「さよならぼくたちのようちえん」(2011)など。近年は伴一彦脚本作品、坂元裕二脚本作品の多くを手掛ける。2009年東京ドラマアウォード・プロデュース賞、2010年エランドール賞・プロデューサー奨励賞受賞。

 

 

 

  ■ 森安 彩(もりやす あや)  共同テレビジョン第一制作部  ドラマプロデューサー


今回は第一回目ということもあり、どのような基準で脚本を審査させていただくかが課題でしたが、市川先生にちなんで「チャレンジ」というキーワードが浮上してきたことにより、方向性が定まったように思われます。そこに、審査員それぞれの『クリエイターならでは』の目線が加わることで、この賞の特徴が明確になったのではないかと感じています。私個人といたしましては、プラスの要素として「物語性」そして「テーマの表現」を重要なポイントとさせていただきました。今回ノミネートされた作品は、放送枠がそれぞれに異なるため、じっくりシーンを重ねて物語を表現するものもあれば、テンポよくシチュエーションを飛ばしていくもののあり、それを同じ土俵で比較するのは大変困難ではありました。しかし読んでみれば、脚本家、そのうしろで支えていたであろうプロデューサー、演出家、スタッフの皆さんの「面白いものを作りたい!」という情熱が、どの作品からも充分に伝わり、この賞をもってさらなるご活躍を応援したい、そんな風に思わせていただいたものばかりでした。その中で、破天荒な設定、展開ながらも、最も「熱意」と「チャレンジ精神」がみなぎっていたと言える大島さんの「恋するハエ女」を受賞作品に決めさせていただいた次第です。今後も皆さんが素晴らしい作品をどんどん生み出されることを心より楽しみにしつつ、またどこかでぜひご一緒に切磋琢磨しながらドラマ作りをしてみたい……そんな期待を抱いています。「テレビドラマって、なんかワクワクするね」―――そんな風に作り手、そして視聴者、双方がますます楽しみになるような、テレビドラマの世界を再構築する一貫に、この賞がなることを心より願っています。


<略歴>1999年株式会社共同テレビジョン系列会社、㈱ベイシス入社。以来共同テレビジョンドラマ部にてドラマを制作。アシスタントプロデューサーを経て、2003年プロデューサーデビュー。代表作品は<連続ドラマ>ANB「エースをねらえ!」、CX「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」「赤い糸」「絶対零度~未解決事件特命捜査」「カラマーゾフの兄弟」、TBS「もう一度君に、プロポーズ」<SPドラマ>CX「WATER DOYS 2005夏」「美ら海からの年賀状」「山峡の章」「積木くずし」。

 

 

 

  ■ 菅野 高至(すがの たかゆき)  市川森一脚本賞財団 事務局長


 脚本賞選考の始まりは昨年の夏の初めだった。先輩ふたり(高橋、渡辺)から「市川森一脚本賞」を作るから手伝えと頼まれたのが発端である。暫くテレビドラマから離れていた。一視聴者だった。ともかく、放送中のドラマを見なければ先には進めない、どうせなら全部見てみようと考えた。折しも7月期の連ドラが始まる頃合い、数えて見ると週30本の連ドラ(深夜ドラマを含む)がある。他に4、5本の2Hサスペンスもある。
 数えただけで、放送中のドラマを全部見るのは無謀なことだと気づいたが、「市川森一脚本賞」が、どんな脚本賞をイメージしたいのかを決めるには、テレビドラマの現在(いま)にちゃんと浸る必要があると考えた。
 そして年が明け、1月下旬、10人の受賞候補者をリストアップする。不安がよぎる。見落とした才気溢るる脚本家はいなかっただろうか。2012年1月から6月までは、脚本賞選考の対象としてドラマを見てはいない。その期間は、毎年3月、放送人の会に「放送人グランプリの<人と作品>」を推薦するために付けていた、番組のメモを参考にした。
 さらに候補者は6人に絞られる。
 櫻井剛さんの「ビギナーズ」はタイトル通り、初々しい作品である。脚本家の櫻井さんが連ドラ初登板のプロデューサーと演出を引っ張る形だったのだろうか。櫻井さんの良さが充分に発揮された作品を待っている。
 「実験刑事トトリ」の西田征史さん。謎解きがメインのサスペンス物は「ドラマ」を描くスペースが限られているだけに、脚本賞の選考には不利になる。多芸、多才な西田さんの人間ドラマを期待したい。
 「リッチマン・プアウーマン」が2作目となる安達奈緒子さん、作品そのものの評価が高くなく、選考では損をした。安達さんには開花していない資質が沢山眠っている、一緒に仕事をしたいと考える選考委員が複数いた。
 古家和尚さんの「PRICELES」。人物配置も多彩で、「キムタク・ドラマ」の王道のような作品だからこそ、毒を潜ませて欲しかった。古家さんは今回、市川賞を受賞しなくても、充分やって行ける作家であるというのが、選考委員、共通の意見であった。
 大島さんと最後まで受賞を競った、篠崎絵里子さん。「眠れる森の熟女」は市川森一さんらしい<寓話性>があると強く受賞を推す選考委員がいる一方で、女ふたりの出会いに許されない偶然が使われていると指摘する意見があった。受賞作には完成度が不可欠だと考えて「~熟女」を推す委員と、未完成でも挑戦的な作品に受賞作を出すべきだと考える委員とに分かれた。最終的には、チャレンジを第一に考えた。

 大島里美さん、おめでとう。「市川森一脚本賞」が大きく育つには、大島さん、あなたの双肩にかかっています。お互い、頑張りましょう。

 市川森一さんの引き合わせでしょうか、今回、それはそれは素敵でチャーミングな制作者たちとの出会いがありました。選考会は刺激的で豊穣な意見が交わされる至福の時間でした。現役の時に、こう言う機会があったなら、私はどんな刺激を受けたのだろうかと、ふと空想して、選考委員の皆さんに嫉妬している。
 最後になりましたが、日々、多忙なプロデューサーを選考の場に気持ち良く送り出してくれた、アマゾンテルナ、テレビ朝日、日本テレビ、共同テレビジョンに心より謝意を表したい。また、候補者の脚本とDVDを貸与してくれた各プロデューサー、フジテレビ、TBS、NHK名古屋放送局、NHKドラマ番組部にも感謝したい。
 そして何より、基金を拠出して頂いた設立会員のみなさまに「ありがとう!」と言いたい。


<略歴>1946年生まれ。70年NHKに入社し、75年よりドラマ部。ラジオドラマ、「ドラマ人間模様」、朝ドラ等の演出を経て、88年よりプロデューサー。主な制作作品に、「純ちゃんの応援歌」(88年)、「むしの居どころ」(92年、芸術作品賞受賞)、「私が愛したウルトラセブン」(93年)、「清左衛門残日録」(93年、芸術作品賞受賞)、「トトの世界」(01年)、「蝉しぐれ」(03年)、「慶次郎縁側日記」(04~06年)、「風の果て」(07年)。08年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。11年5月退職。

 



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■ 候補者6名の選出


 財団より選考委員長に指名された菅野が、2012年1月1日~12月31日に配信・放送された映像ドラマから、10名ほどの候補者をリストアップし、高橋、渡辺、市川の理事3人と菅野が合議の上、6名の候補者と対象作品に絞り込む。
 選考の基準は、プロ・デビュー10年程度以内で、オリジナル作品を執筆し、受賞を機に将来的にさらに大きな伸びしろが期待され、「市川森一の名にふさわしい作品世界か否か――<物語性>が豊か、<夢や異空間>を描くか、<挑戦>しているか、――とした。

 

 

■ 選考委員の委嘱


高橋、渡辺、市川の理事3人と菅野が協議の上、選考委員4名を選出して委嘱する。
委嘱の基準は、現役のプロデューサー(演出)を前提に、放送局、制作会社、性別等を勘案してお願いする。

 

 

■ 選考経過


  選考委員は候補者6名の対象作品の第1回脚本と、対象作品のプロデューサーと脚本家が「読んで欲しい」と自薦した回を読み、自薦回のDVDを視聴した上で、選考会に臨む。(なお、「PRICELESは第1回脚本を読む。)

選考会は3月17日(日)午後3時より行われ、司会進行を選考委員長の菅野が担当する。
選考委員が一人ずつ、受賞者に推したい候補者をあげて、その理由を述べ合う。
委員はみな、自分が「この候補作品をプロデュース(演出)するとしたら?」と、想定して候補作を丁寧に読み込んで来ていた。その結果、「恋するハエ女」、「PRICELES」、「眠れる森の熟女」、3作品が残る。
さらに意見を交わす中で、選考委員から、財団側で選考基準の「市川森一」らしさを、どれか一つに絞らないと結論が出ないとの提案があり、委員長の判断で<挑戦>を選考のキーワードとする。そして、再度、各委員から推したい候補者の名をあげて貰う。
その結果、大島里美氏が第1回の受賞者に決まる。

 3月21日(木)午後3時より開かれた、財団の臨時理事会で、選考委員長より、選考経過と受賞者が報告され、出席の理事が協議の上、大島氏の受賞が承認される。続いて開催された評議員会にも同様の報告があり、大島氏の受賞が確定する。

 

(事務局長・選考委員長 菅野高至)