■■■【第10回】市川森一脚本賞  ■■■

<受賞者・作品>






加藤 拓也(かとう たくや)氏


「きれいのくに
(全8回)
NHKG、2021年4月12日~
第10回・受賞者<記者発表>

3月1日11時30分より、東京渋谷・NHK放送センター14階の「ラジオテレビ記者会」にて、第10回受賞者の発表があり、続いて受賞者・加藤拓也(かとうたくや)さんの記者会見が行われました。

  加藤 拓也 氏

【受賞の言葉】

 

三つのプロットをプロデューサーに渡すと、もっとも実現できるかどうかわからないものが選ばれた。流行によってマイノリティが生まれる話、しかもその流行はルックスである。CGで顔を合成しなければならない、しかも大量の人数を時間もあまり無い中で、本当に実現できるのかわからないが、しかしなんだか面白そうと乗ってくれたプロデューサ一達のお陰で実現した物語であた。本作りが始まってからもやはり合成についてはしばらく話していたような気がする。

 

特に記憶にあるのは、リハーサルとオーディションを純粋に沢山やらせてもらえたことだ。実は映像と演劇の本数で言うと大差はないのだが、やはり活動の軸は演劇にあり、普段の私の持つ感覚とテレビドラマとの感覚をどうやってすり合わせ、着地点を見つけてゆくのかという、沢山の寄り添いをいただいた。コロナ流行のど真ん中で幸いにも誰一人罹る事なく、撮り終えれた事も感慨深かった。一話〜三話の、我々は大人編と呼んでいたのだが、キャスティングも絶妙だったと思う。

 

見てくれた人達に感謝と、出演者、スタッフの皆にも参加してくれて感謝を伝えたい。それから選考委員の方々にも、選んでいただけて嬉しく思います。どうもありがとうございました。

 


<略歴>

1993年12月生まれ。28歳。大阪府出身。演劇と映像で執筆と演出活動をしている。

高校在学中からラジオ、演劇、テレビ番組の演出を手掛ける。18歳の時に渡伊し、映像作家として活動。帰国後に「わをん企画」「劇団た組」を立ち上げる。2017年シアタートラム上演の『壁蝨』(だに)で若手演出家コンクール優秀賞を受賞後、辞退。2018年フジテレビ『平成物語』でドラマ初脚本、第7回市川森一脚本賞・ノミネート。日本テレビ『部活、好きじゃなきゃダメですか?』で連ドラ初脚本。

<主なテレビドラマ>

CX「平成物語」(2018年3月)脚本【第7回市川賞候補作】、NTV「部活、好きじゃなきゃダメですか?」(18年10月期)脚本、CX「平成物語 season2」(19年3月)脚本、「不甲斐ないこの感性を愛してる」(19年4月)監督・脚本【第8回市川賞候補作】、NTV「俺のスカート、どこ行った?」(19年4月期)全話脚本【第8回市川賞候補作】、MBS「カフカの東京絶望日記 第1話~第3話」(19年9月)監督、MBS「死にたい夜にかぎって」(2020年2月期)全話脚本、NHKG「きれいのくに」(21年4月期、30分×8回)全話脚本・監督④、TX「お茶にごす。」(21年10月期)原作:西森博之、

脚本執筆①~⑥

<主な舞台の脚本・演出>

『心臓が濡れる』すみだパークスタジオ倉・2018年7月、『貴方なら生き残れるわ』彩の国さいたま芸術劇場・18年11月、『在庫に限りはありますが』すみだパークスタジオ倉・19年4月、『今日もわからないうちに』シアタートラム・19年8月-9月、『誰にも知られず死ぬ朝』彩の国さいたま芸術劇場・20年2月-3月、『真夏の死』日生劇場・20年9月、『たむらさん』シス・カンパニー公演・20年10月、『ぽに』KAAT神奈川芸術劇場・21年10月-11月、『もはやしずか』シアタートラム・22年4月、『ザ・ウェルキン』シス・カンパニー公演・22年7月-8月。

<MOBIE>

「わたし達おとな」監督・脚本・22年6月公開。 

第10回「市川森一脚本賞」選考経過

候補者名の選出

20211217日(金)、理事有志人(市川渡辺高橋、小林、菅野)により、 前年の1月1日~12月31日に放送された映像ドラマから、別掲名の候補者と対象作品を選ぶ。

 

「市川森一脚本賞」の<選考基準>は例年通り、<プロデビュー10年程度で、オリジナル作品を執筆し、受賞を機に将来さらに大きく伸びると期待される人で、「市川森一」の名にふさわしく、<物語性>や<夢・異空間>、さらに、<挑戦>ているか否かを考慮する。

 

選考委員

倉内 均(くらうち ひとし)    株式会社アマゾンラテルナ 取締役会長

次屋 尚(つぎや ひさし)        日本テレビ放送網株式会社 制作局プロデューサー

森安 彩(もりやす あや)     株式会社共同テレビジョン 第1制作部プロデューサー

岡部 紳二(おかべ しんじ)    株式会社テレビ東京制作 取締役

韓 哲(はん ちょる)      株式会社TBSテレビ ドラマ制作部 P&D

菅野 高至(すがの たかゆき)   選考委員長 フリープロデューサー 元NHK

※選考委員の交代がありました。高成麻畝子は勇退し、現役の韓に代わられました。


選考経過  

10日(金)夜、渋谷の会議室選考会が開かれる。

オリジナルドラマが少ない中、昨年に続コロナ禍の影響を受けて候補者候補作3人・3作品とな本年もまた候補作は粒ぞろいとはならず、加藤拓也さんの意欲的挑戦的作品性・作家性他者を凌いで、選考委員一致、理事会に推薦することに決まる

 

理事会の承認

2月16日(木)午前11時より開かれた第29回理事会において、選考委員長より選考経過と受賞者が報告され、出席の理事が協議の上、加藤拓也さんの贈賞が承認される。

 

選考理由

夢や異空間にはせる独特な想像力で物語を紡ぐ、加藤拓也さんは、豊かなチャレンジ性と秀逸な作家性のもとに次代を背負って活躍する高く評価されました。

 

 

 

選考委員 <選評・プロフィール>

  ■ 倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 取締役会長


 

加藤拓也氏のきれいのくに一読してよくわからなかったので、もう一度、自分が演出したらという、やや仕事モードで読み直したが、アイデアは浮かばなかったわたしの演出の非力さゆえに違いないが、(わたしの)アクセスが拒否されている感じだった。

 

考えてみれば登場人物のセリフのすべて「気分」で貫かれいる。

気分この脚本こには主義や思想分別説教、さらに言うなら、局の編成の都合や視聴率のための技巧といったことをも拒否するかのような、奇妙自由ある

もしかしたら、脚本の次の時代チャレンジかもしれないと、その可能性に一票を投じた。

 

 溝井英一デービス氏の『スーパーリッチ』は(いい意味で)「まとも」だった。会社が崩壊して、再生を果たすという見慣れた話ではあるが、わたしたちの社会が体験しているコロナ禍のいまが意識されている。

壊れかけた共同体にあって私たちがなすべき連携の形が示されているように思えた。

 

年上の女性社長と若い男性社員とのラブストーリーが主旋律となってはいるが、毎話、社員一人一人再生に向かっての行動は、それぞれのパートをそれぞれ演奏する楽曲のフルスコアに似て、全体が調和されたシンフォニーを奏でている。

 

構造が明快で、わたしの一押しだった。二人が結婚し、ありふれた日常でのシンプルな暮らしを誓い合う、それが「スーパーリッチ」とするラストシーンは、コロナ後へのメッセージ。作家としての力を感じた。

 

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<略歴>1949年生まれ。1971年4月(株)テレビマンユニオン入社。1988年4月(株)アマゾン設立代表取締役。2010年4月(株)アマゾンラテルナ設立代表取締役社長。現・取締役会長。2012年4月全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)理事長就任。主な監督・演出作品に、『日本のいちばん長い夏』(2010)、『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)、『母とママと、私』(2007)、「ドラマスペシャル『炎の料理人 北大路魯山人』」(1987)『四谷怪談〜恐怖という名の報酬〜』(2003)ほか。

 

 

  ■ 次屋 尚(つぎや ひさし)  日本テレビ放送網株式会社 プロデューサー


 

今回は候補作が3作品ということでこれまでで一番少なかったわけですが、どれも数多くある他のドラマとは趣を異にする意欲的な作品であった気がします。

 

その中にあって加藤さんの作品は特に「気鋭」という言葉が似あう奇特な存在感を放っていたように思います。物語構成上の不明瞭さや難解さも、私個人的にはむしろ好意的に受けとめており、観る者に多少考えて頂く余地を提供することも、このご時世あって然るべきと考えています。昔はそういう不思議で且つどうしても心から離れない作品がたくさんありました(余談)。

 

ともあれ、

この企画を通し、映像化し世に送ったプロデューサーはじめ制作者の方々へも賛辞を送りたい気持ちです。もっとも、その制作者たちの心を動かし実現させたのは加藤さんの存在、才分であるわけで、今とても恵まれた環境にあると言えるのではないでしょうか。

今ある武器と味方をがんがん駆使・利用して、加藤ワールドでドラマ界に旋風を起こして頂きたいです

 

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<略歴>1965年生まれ、愛媛県出身。早稲田大学演劇専修卒業後、制作会社を経て日本テレビ放送網㈱入社。主なプロデュース作品:連続ドラマ「アイシテル~海容~」(2010)、「Mother」(2011)、「デカワンコ」(2011)、「Woman」(2013) 、「先に生れただけの僕」(2017)、「anone」(2018)など。伴一彦脚本作品、坂元裕二脚本作品を多く手掛ける。

 

 

 

  ■ 森安 彩(もりやす あや)  株式会社共同テレビジョン プロデューサー


 

今回は候補作品が少なく、審査が大変困難だった。どの作品も作家さんや制作陣の想いは感じるものの、テーマ表現の的確さや人物の掘り下げ、熱量といったにおいてこれまでの大賞作品に比べると決定打に欠けた。

 

その中で今回大賞を射止めた加藤拓也さんの「きれいのくに」。私が票を入れた理由は、奇想天外な設定の一点です。内容や表現に関しては以前ノミネートされた「平成物語」のほうが個人的には評価は高いが、加藤さんの独特の設定作りやセリフ回しは唯一無二であることは間違いないので、今後の作品への大きな期待も含め、推させて頂いた。

さらに幅広いジャンルやテーマの連続ドラマにチャレンジして頂き、テレビドラマの新しい扉を開いて頂きたい勝手ながら願っています

 

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<略歴>1999年株式会社共同テレビジョン系列会社、㈱ベイシス入社。以来共同テレビジョンドラマ部にてドラマを制作。代表作品は<連続ドラマ>ANB「エースをねらえ!」、CX「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」「赤い糸」「絶対零度~未解決事件特命捜査」「カラマーゾフの兄弟」「家族の裏事情」「SMOKIG GUN~決定的証拠~」「心がポキッとね」「ふなっしー探偵」「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」、TBS「もう一度君に、プロポーズ」、NHK「受検のシンデレラ」「捜査会議はリビングで!」、<SPドラマ>CX「WATER DOYS 2005夏」「美ら海からの年賀状」「山峡の章」「積木くずし」。

 

 

  ■ 岡部 紳二(おかべ しんじ)  株式会社テレビ東京制作 取締役


 

「きれいのくに」加藤拓也氏

見たことのないオリジナリティーを感じた。

連ドラとしての一貫性に乏しく難解だが、ピュアなラブストーリーとしても引き込まれた。

破綻寸前の危うさの中に不思議な魅力を感じる作品。

 

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<略歴>1988年東京都立大学経済学部卒後、㈱テレビ東京入社。人事部、ニュース報道部、編成部、バラエティー制作等を経て、01年よりドラマ制作部にてプロデューサーに。0510月期より、深夜枠『ドラマ24』を立ち上げる。2021年より、上記・現職。主な担当作品:「北朝鮮拉致・めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」(03)「嬢王」(05)「上を向いて歩こう~坂本九物語~」(05)「モテキ」(10)「三匹のおっさん」(14)「永遠の0」(15)「釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助」(15)「信長燃ゆ」(16)「警視庁ゼロ係」(16

 

 

  ■韓 哲(はん ちょる)  TBSテレビ ドラマ制作部 プロデューサー&ディレクター  


 

加藤拓也さんの『きれいのくに』は、展開が読めず予想を裏切られることの連続でした。連続ドラマの定石に慣れきった自分には何度も「そんな馬鹿な…」と言いたくなる思いを抱きながらも、加藤さんの世界に引き込まれていきました。

後半の若者たちの物語は、ファンタジーな世界観の中でもリアルな台詞が溶け合って、唯一無二の不思議な魅力に満ちていて魅了されました候補作の中で最も挑戦的な作品であり、その強い作家性一票を投じさせていただきました。

 

大北はるかさんの『ナイトドクター夜間救急専門医の群像劇という、コロナ禍に苦しむ現代(いま)だからこそ描くべきという意欲と挑戦心を感じる作品でした。

溝井英一デービスさんのSUPER RICH、ベンチャー企業を舞台に現代社会を取り巻く様々なテーマを取り上げ、そこに年の差のラブストーリーを掛け合わせた意欲作でした。

 

加藤さん、大北さん、横井さんの次回作をとても期待し楽しみにしております。

 

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略歴

1973年東京生まれ。1997早稲田大学卒業後、TBS入社報道情報バラエティディレクターを経て2006からドラマ制作部でプロデューサーディレクター

 

主な作品に「新参者」「冬のサクラ」「桜蘭高校ホスト部」「ATARU」「S-最後の警官-」「ママとパパが生きる理由」「アルジャーノンに花束を」「家族ノカタチ」「コウノドリ」「ハロー張りネズミ」「チア☆ダン」「リコカツ」

 

 

  ■ 菅野 高至(すがの たかゆき)  市川森一脚本賞財団 選考委員長


 

今年の候補者3人の年齢は若く、20代から30代でしたしかも、候補作3本のうち54分枠・連続11回作品で、一人の脚本家が11回を書き切っています。

いずれもフジテレビの制作で若い作家たち挑戦の場を与えた勇気ある選択に敬意をたい思います

 

大北はるかさん「ナイト・ドクター」全11回あえて架空の設定にして、命と向き合専門の医者たちの青春描き込むまさに意欲的な作品でした。

溝井英一デービスさん「SUPER RICH」全11回韓国ドラマにも似たある種の多弁さがあなたの武器なのでしょうか。危うい会社で格闘する一人ひとりに愛おしさを感じました。

 

この二人にも増して、意欲的で挑戦的な脚本「きれいのくに」を書かれたのが加藤拓也さんでした。簡単に分でまとめられてしまうドラマは作りたくない、最後までちゃんと見ないと分からないドラマを作りたい、加藤さん狙いした

しかも私は脚本を読み終えても、なにか宿題を託されたような気分になる物語で自らに顧みて、貴方は大衆の中に紛れ込もうとしていないか、と問われてもいる感じなのです

 

多彩な作品世界見せてくれる、加藤さんにあらためて惚れ直しました。第10回の受賞おめでとうございます。

 

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 <略歴>1970年NHK入社。「ドラマ人間模様」、朝ドラ等の演出を経て、88年よりプロデューサー。「純ちゃんの応援歌」(88年)、「むしの居どころ」(92年、芸術作品賞・受賞)、「私が愛したウルトラセブン」(93年)、「清左衛門残日録」(93年、芸術作品賞・受賞)、「トトの世界」(01年)、「蝉しぐれ」(03年)など。08年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。115月に退職し、フリーになる。

 

 第10回「市川森一脚本賞」受賞候補者(放送順)

■加藤 拓也 

NHKG「きれいのくに」(30分×全8回、4/12~)

 

■大北 はるか 

フジテレビ「ナイト・ドクター」(54分×全11回、6/21~)➀70分

 

■溝井 英一 デービス 

フジテレビ「SUPER RICH」(47分×全11回、10/14木~)