■■■【第9回】市川森一脚本賞  ■■■

<受賞者・作品>






倉光 泰子(くらみつ やすこ)氏


「アライブ がん専門医のカルテ
(全11回)
フジテレビ、2020年1月9日~

  倉光 泰子 氏

【受賞の言葉】

 

「今回は復讐劇にしよう」と、プロデューサーの太田さんと監督の高野さんと企画開発当初は話していました。悪意、嫉妬、憎悪を盛り込んだドロドロ物です。それがゴール地点では『アライブ」という、"生"をテーマにした作品に変化を遂げました。

 

 正直、人の良心を描くことに関して苦手意識があり、腫瘍内科医が主人公のドラマを手がけることは不安でした。その上、"がん"や"生死"というセンシティブなテーマを扱うため、リアリティが要されると同時に、ドラマとしてのエンターテイメント性を両立させなくてはいけない。私にとっては、高いハードルでした。

 

 プロデューサー、監督、医療監修の先生方の支えがなければ、書き上げることはできなかったと思います。そして、この脚本を優秀なスタッフのみなさん、魅力的なキャストのみなさんが、最高な形で具現化してくださったおかげで、『アライブ』という作品が出来上がりました。心から感謝しております。

 

 この作品を通して私自身改めて痛感したことがあります。素直な目でこの世界を見ると、自分がどれだけ周り人たちの心に支えられているか、ということです。これからも感謝を忘れずに、精進していきたいと思います。

 

 選考委員のみなさま、選んで下さってありがとうございます!

 


<略歴>

1983年生まれ。37歳。日本大学芸術学部映画学科監督コースを経て、東京芸術大学大学院映像研究科脚本領域卒業。卒業後は映画制作会社、映画配給会社で働く傍ら、携帯ゲームのシナリオを執筆。2014年『隣のレジの梅木さん』で、第26回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞。同年12月に放送。

<主な映像作品>

フジテレビ「ラヴソング」(2016年4月)、「突然ですが、明日結婚します」(17年1月)、「アイ

私と彼女と人工知能」(17年10月前後編)、MBS「恋する香港」(17年10月)、フジテレビ「刑

事ゆがみ」(17年10月)、Paravi/TBS/テレ東/WOWOW「touristツーリスト」(18年9月)、フジテレビ「スキャンダル専門弁護土QUEEN」(19年1月)、「アライブがん専門医のカルテ」(20年1月、④⑦⑩執筆:神田優)、Netflix配信「今際の国のアリス」(2020年12月)

 

第9回「市川森一脚本賞」選考経過

■候補者4名の選出

202012月18日(金)、理事有志5人(市川、辻、渡辺、小林、菅野)により、前年の1月1日〜12月31日までに、放送(放送予定を含む)された映像ドラマから、別掲4名の候補者と対象作品を選ぶ。

 

「市川森一脚本賞」の<選考基準>は例年通り、<プロデビュー10年程度までで、オリジナル作品を執筆し、受賞を機に将来さらに大きく伸びると期待される人で、「市川森一」の名にふさわしく、

<物語性>や<夢・異空間>、さらに、<挑戦>しているか否かを考慮する。

 

■選考委員

倉内 均(くらうち ひとし)   株式会社アマゾンラテルナ 取締役会長

次屋 尚(つぎや ひさし)    日本テレビ放送網株式会社 制作局プロデューサー

森安 彩(もりやす あや)    株式会社共同テレビジョン 第1制作部プロデューサー

岡部 紳二(おかべ しんじ)   株式会社テレビ東京制作 取締役

高成 麻畝子(たかなり まほこ) 株式会社TBSテレビ 事業局事業部

菅野 高至(すがの たかゆき)  選考委員長 フリープロデューサー 元NHK

 

■選考経過

2月12日(金)夜、恵比寿の会議室で選考会が開かれる。

オリジナルドラマが少ない中、コロナ禍の影響もあって、候補者・候補作は主に1月期(コロナの影響が少ない)が中心となった。従って、候補作は粒ぞろいとはならず、倉光泰子さんの筆力が他者を圧倒して、選考委員一致で、理事会に推薦することに決まる。

 

■理事会の承認

2月17日(水)午前11時より開かれた第26回理事会において、選考委員長より選考経過と受賞者が報告され、出席の理事が協議の上、倉光泰子さんの贈賞が承認される。

 

■選考理由

 綿密な取材に裏打ちされた物語を、巧みな筆力で紡ぐ倉光泰子さんの作品には、豊かなチャレンジ性に溢れた表現力があり、次代を背負って立つと高く評価されました。

 

第9回・受賞者<記者発表>

3月9日午後1時30分より、東京渋谷・NHK放送センター14階の「ラジオ・テレビ記者会」にて、財団理事・菅野高至から第9回の受賞者の発表があり、続いて受賞者・倉光泰子(くらみつやすこ)さんの記者会見が行われました。写真撮影:井場央貴

選考委員 <選評・プロフィール>

  ■ 倉内 均(くらうち ひとし)  株式会社アマゾンラテルナ 取締役会長


 

倉光泰子氏の『アライブ〜がん専門医のカルテ」は、二人の女性医師の間の信頼と疑念の曲折をへて関係回復に至る経緯を横軸に、さまざまながん患者の生存(アライブ)への道筋を縦軸に構成されている。

 

この11話の連続ドラマが放送されたのは2020年1月スタートで、新型ウイルス感染拡大の時期に重なっているのだが、脚本が書かれたのは、おそらくそれ以前。

だから、そこにコロナの影が差すことはなく、がん病棟での医師と患者とのまっすぐな気持ちが行き交う物語は"健康的"ですらある。すなわち、善意に満ち、健気で、真正面な人との向き合い方がストレートに描かれる。いまとなっては懐かしささえ感じられる世界だ。このわずか一年の間に、わたしたちはこんなに遠くまで来てしまったのか、とも思う。

 

そんな思いでこの脚本を読んでいて、わたしは幾度か心打たれた。美しいシーンがいくもあった。余命3ヶ月と宣告された女性(55)に、若年性認知症で日々記憶を失っていく恋人(55)がプロポーズする。男性医師が患者の少年(18)のためにマジックを見せてやる。妊娠中の女性患者(39)と夫(29)との約束で出産を決意する⋯⋯。

 

がんに苦しみながらも前向きに生きようとする患者たちと、かれらの姿勢に寄り添おうとする医師たち。直球勝負ゆえのアピールは正直、わたしにとっては新鮮だった。

コロナ後も襲ってくるであろう未体験の災厄で、テレビドラマも変容していくだろう。「アライブ」(生存)のメッセージは「この先」に向けても発せられている。

 

そして、もうひとつ心惹かれた脚本は、政池洋佑氏の『スナイパー時村正義の働き方改革」。

スナイパーに働き改革というアイデアには意表を突かれるが、まるで演劇空間での緊密な時間描写とエスプリの効いたセリフのやりとりに才能の冴えを感じた。この人はぜひ組みたい人。

深夜枠30分3話、ワンセット、登場人物ふたりという小規模(低予算?)のドラマだが、この手法はもしかしたら「この先」のテレビや映画の行き先を示しているかもしれないと思った。

願わくは、長尺の作品、そして多様な人物を描き分ける脚本を。

 

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<略歴>1949年生まれ。1971年4月(株)テレビマンユニオン入社。1988年4月(株)アマゾン設立代表取締役。2010年4月(株)アマゾンラテルナ設立代表取締役社長。現・取締役会長。2012年4月全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)理事長就任。主な監督・演出作品に、『日本のいちばん長い夏』(2010)、『佐賀のがばいばあちゃん』(2006)、『母とママと、私』(2007)、「ドラマスペシャル『炎の料理人 北大路魯山人』」(1987)『四谷怪談〜恐怖という名の報酬〜』(2003)ほか。

 

 

  ■ 次屋 尚(つぎや ひさし)  日本テレビ放送網株式会社 プロデューサー


 

今回の候補4作品、1つは現実社会のリアルを切実にそしてエモーショナルに描くもの、他の3つは非現実的な舞台設定を用いながらも現代社会の最先端課題を柔らかに提起するもの、という分類ができるものでした。個人的にはファンタジックな手法を用いながら人間の真理を描く作品が好みではあるのですが、4作品ともキャストや演出のパワーも借りて、現代人が現代社会を生きるヒントを示唆する秀作だったと思います。

 

ドラマ作品自体への感想はさておき、この賞は、やはり優秀な脚本へ授ける賞です。そう意味で倉光さんの脚本が一歩リードしていたと言うことになるでしょう

内面と社会性がとても丁寧に、精密に、繊細に描いてありました。作家としての"テーマ"へのこだわりとエネルギーもひしひしと感じられる脚本でした。

 

政池さん、絶妙な場面展開と心地よいセリフのキャッチボール絶妙でした。

友治さん、テンポ感とリズム感は秀逸でした。チャンスはまたやって来ます。

桑原さん、私はあなたの作品をウォッチリストに登録しフォローし見守り続けます。個人的にとても期待しています。

 

そして倉光さん、今回の受賞おめでとうございます。これを機に倉光作品と呼ばれる名作をバンバン世に送り出してください。

 

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<略歴>1965年生まれ、愛媛県出身。早稲田大学演劇専修卒業後、制作会社を経て、2005年日本テレビ放送網㈱入社。主なプロデュース作品:連続ドラマ「アイシテル~海容~」(2010)、「Mother(2011)、「デカワンコ」(2011)、「Woman(2013) 、「先に生れただけの僕」(2017)、「anone(2018)など。伴一彦脚本作品、坂元裕二脚本作品を多く手掛ける。

 

  

 

  ■ 森安 彩(もりやす あや)  株式会社共同テレビジョン プロデューサー


 

今年は全作品がエンタテイメント性に富んでいて、読んでいて素直に面白かった。

どの作品もタイトルそのものが、ドラマのテーマやコンセプトを明確に打ち出しているのも特徴的。

その中で、今回私にとって決め手となったのは意外性。最も予想を裏切ってくれたのが「アライブ」だった。

 

がんを専門とする善良な医師の物語であることは観なくても読まなくても既にわかるタイトル。ともすればステレオタイプになりがちなジャンル。しかし。台本を読み始めたら、あっという間に引き込まれた。まさか主人公があのよう枷を背負わされていくとは!

 

一話完結型で、患者の事情やケースごとの治療法が物語の中心になることが多い医療ドラマ。

しかし「アライブ」では主人公自身が医者でありがら重い病状の夫を抱える妻であり、やがては医療過誤の被害者遺族となっていく。もう一人の女医も医者でありながら、自らもがんと闘う患者。二人ともまさに「当事者」である。

 

秀逸だと思ったのは二人の女医の出会い。医療ドラマなのに、メインの女医二人が医者の立場ではないシチュエーションで出会う面白さ。斬新な切り口のシーンであり、そこで表現されていく主人公の想いが胸に刺さった。このシーンで主人公の生身の人間らしさに引き込まれ、物語の続きを知りたくなった。その後の女性二人の変わっていく関係性の表現も新鮮だった。

 

品よく、せつなく、人間が万能ではないこと、命には限りがあるという残酷な現実を視聴者に突きつけながらも、だからこそどのように生きるかが大切であるという強いメッセージを伝える作品。観れば、今日も明日も毎日をしっかり生きていこう、と感じるドラマ。

真っすぐ真摯に命と登場人物達の生き様に向き合い、なおかつこのシビアな題材をエンタテインメントに仕上げた倉光さんに、拍手!

 

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<略歴>1999年株式会社共同テレビジョン系列会社、㈱ベイシス入社。以来共同テレビジョンドラマ部にてドラマを制作。代表作品は<連続ドラマ>ANB「エースをねらえ!」、CX「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」「赤い糸」「絶対零度~未解決事件特命捜査」「カラマーゾフの兄弟」「家族の裏事情」「SMOKIG GUN~決定的証拠~」「心がポキッとね」「ふなっしー探偵」「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」、TBS「もう一度君に、プロポーズ」、NHK「受検のシンデレラ」「捜査会議はリビングで!」、<SPドラマ>CX「WATER DOYS 2005夏」「美ら海からの年賀状」「山峡の章」「積木くずし」。

 

 

  ■ 岡部 紳二(おかべ しんじ)  株式会社テレビ東京制作 取締役


 

 沁みる作品。「アライブ」。

 緻密な取材と丁寧なキャラクター造形で、「生と死」「病とともに生きる」という骨太なテーマを正面から描いた。脚本家のぶれない真摯な取り組みに感動した。

 

 

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<略歴>1988年東京都立大学経済学部卒後、㈱テレビ東京入社。人事部、ニュース報道部、編成部、バラエティー制作等を経て、01年よりドラマ制作部にてプロデューサーに。0510月期より、深夜枠『ドラマ24』を立ち上げる。主な担当作品:「北朝鮮拉致・めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」(03)「嬢王」(05)「上を向いて歩こう~坂本九物語~」(05)「モテキ」(10)「三匹のおっさん」(14)「永遠の0」(15)「釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助」(15)「信長燃ゆ」(16)「警視庁ゼロ係」(16

 

 

  ■高成 麻畝子(たかなり まほこ)  TBSテレビ 事業局事業部 プロデューサー  


 

『アライブ』

飽和状態にも思える日本の医療ドラマだが、そうか、こんな描き方があったのか、と驚いた。終末医療という一見地味な世界を取り上げ、生と死が静かに閱ぎ合う世界観を、真っ直ぐに誠実に描こうという、制作チームの姿勢が脚本のそこかしこに感じられ、尊敬の念を禁じ得なかった。女性ふたりのバディものとも言えるが、その関係も終始清々しく、凛々しい。最近の医療もののフォーマットに反して、悪い人が一人も出てこないのにも好感。

尊敬を込めていちばんに推させて頂きました。

 

『スナイパー』

たったひとつのセットで全てが完結、それでいてスパイもののスリルとワクワク、バディものならではの対立と邂逅、そして共闘、最後はほのかなラブまで、目一杯ドラマが詰まった作品。自分がプロデューサーなら泣いて喜ぶコスパの良さ。お見事です。

 

『パンダ』

清野奈々さんの魅力を存分に引き出そうとしている力作。ただし、既視感が否めないのが残念。あともっと大きなテーマや挑戦を根底に感じたかった。次回作に期待します。

 

『成仏』

まだまだ荒削りながらも、胸がギュッとなるような愛しさ、キュートさに溢れた作品。脚本の方のキャラクター造形力がすごいです。型にはまらない、底力を感じます。基礎も時々勉強しつつ、もっと書いて書きまくってください。いつかだれにも登れない山に登頂されているでしょう。

 

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<略歴>お茶の水女子大学芸術教育学修士課程卒。1998年TBSテレビ入社。バラエティ制作を経て翌年ドラマ部に配属。00年「きみはペット」でディレクターデビュー。「末っ子長男姉三人」「スキャンダル」「パパとムスメの七日間」「ヤンキー君とめがねちゃん」「レジデント~5人の研修医」などを演出。08年からプロデューサーも兼務。「Around40~注文の多い女たち」で初プロデュース後、「スマイル」「恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方」「アリスの棘」「表参道高校合唱部」など。「あなたには帰る家がある」(2018

 

 

 

  ■ 菅野 高至(すがの たかゆき)  市川森一脚本賞財団 選考委員長


 

2020年はパンデミックの影響を受けて、4月期の連ドラは中断を余儀なくされ、ドラマの放送が通常に戻ったのは、秋10月のことでした。それもあってでしょうか、今回の候補作、4作品のうち3作品が1月期放送のものでした。

 内容から言うと、候補作は、みな、死の影がつきまとうものでした。偶然なのでしょうか、やはり、時代の気分なのでしょうか⋯。

 

選考会を前にして、私には2つの選択肢がありました。ひとつは、脚本の完成度には目を瞑って、脚本家の可能性に懸ける道です。もうひとつは、書かれた脚本の到達点から、脚本家の将来性を讃える道です。

 選考会の結論は、腫瘍内科医を主人公に、あくまで正攻法で、<生と死>をテーマに<女二人の友情>の物語に紡ぎ上げた、創光さんへの贈賞となりました。選考委員全員が倉光さんを推しました。おめでとうございます。

 市川森一賞にふさわしいファンタジー、「彼女が成仏できない理由」は受賞には至りませんでした。勝ち負けで云うのも妙ですが、倉光作品の純度と深度には勝てませんでした。

 

 ミャンマーから日本へ漫画家を目指して来た青年「エーミン」は今、どうしているのでしょうか、桑原さんの創作上の人物ですが、いたく気懸かりです。2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが起こり、3月半ば過ぎ、抗議デモへの弾圧が激しさを増しています。いつの日か、エーミン一家の雄々しく生きる物語を見てみたいものです。桑原さん、頑張れ!

 

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 <略歴>1970年NHK入社。「ドラマ人間模様」、朝ドラ等の演出を経て、88年よりプロデューサー。「純ちゃんの応援歌」(88年)、「むしの居どころ」(92年、芸術作品賞・受賞)、「私が愛したウルトラセブン」(93年)、「清左衛門残日録」(93年、芸術作品賞・受賞)、「トトの世界」(01年)、「蝉しぐれ」(03年)など。08年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。115月に退職し、フリーになる。

 

第9回「市川森一脚本賞」受賞候補者(放送順)

■倉光 泰子

 フジテレビ「アライブ がん専門医のカルテ」(54分×全11回、1/9〜)

 共同脚本:神田 優④⑦⑩

 

■佐藤 友治

 読売テレビ「シロでもクロでもない世界でパンダは笑う。」

 (46分×全10回、1/12〜)

 共同脚本:蛭田 直美④、根津 大樹⑥

 

■政池 洋佑

 中部日本放送「スナイパー時村正義の働き方改革」(30分×全3回、3/12〜)

 原案:尾田 真一

 

■桑原 亮子

 NHKG(名古屋制作)「彼女が成仏できない理由」(30分×全6回、9/12〜)